odol
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LINER NOTES
3nd Album『往来するもの』

1.光の中へ
2.大人になって
3.four eyes
4.GREEN
5.人の海で
6.発熱
7.時間と距離と僕らの旅
8.憧れ
9.声

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https://odol.lnk.to/HikariNoNakae

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<「覚醒」と言っていいだろう。それも、二つの意味で。>

 odolというバンドは、前作『YEARS』からの2年半で、大きな成長を遂げてきた。めざましく表現の幅を広げてきた。これまでのスタイルや枠組みにもとらわれず、焦がれるようなエモーションを音楽の形にすることを追い求めてきた。そういう旅の集大成としてのアルバムが本作。ゾクゾクするような美しさが全9曲に込められている。

 そういうバンド自身の成長を示す「覚醒」と共に、アルバム全体のモチーフにも「覚醒」というテーマが通奏低音のように流れている。薄暗い場所を抜けて光に向かうこと。大人になる、ということ。その過程の中で否応なしに失ってしまうもの。それでもずっと手の中に握りしめておきたいと願うもの。そういう数々の思いが描かれている。

 だから、曲調はバラエティに富んでいても、アルバムには不思議な統一感がある。ときにダンスミュージックだったり、エレクトロニカだったり、ロックバンドにとどまらない様々なベクトルのサウンドメイキングが成されているけれど、そのストーリーは一貫している。ミゾベリョウの張り詰めたハイトーンの歌声が鮮烈な印象を残す。

 なかでも白眉なのは冒頭の「光の中へ」だろう。マーチングバンドのリズムとループするフレーズに、ストリングスやホーン、そして幾重ものギターサウンドが重なり、徐々に雄大な薄明の風景を見せていく。ミディアムテンポで縦が揃ったアンサンブルの「大人になって」、ダークなハウス・ミュージックの「four eyes」と続き、昨年のEP『視線』に収録された「GREEN」を含めた前半4曲でアルバムのトーンを形作っている。それはいわば、切迫感と眩しさが背中合わせになったような美しさだ。4つ打ちのビートで、「odol」というバンド名の通り踊らせるタイプの曲も並ぶのだけれど、そこにあるのはEDM的なダンスミュージックの享楽性とは対極のムードだ。

 アルバム後半には、抑えたテンションの楽曲が並ぶ。フォークトロニカなテイストの「人の海で」と「発熱」は、都会の喧騒と一人の病床という対照的な情景ながら、同じような孤独と喪失にスポットを当てる内省的な2曲。そして開放的なポップセンスに満ちた「時間と距離と僕らの旅」から、ラストの「憧れ」と「声」は、出会いと旅立ちについて歌った曲。冒頭の「光の中へ」のリプライズのような余韻を残す。

 たぶん、彼らにとっても20代前半の今しか作ることのできないタイプの作品だと思う。刹那の青い美しさを、鮮烈に射抜いている。

柴那典(音楽ジャーナリスト)